歯形

言葉が武器になるのは、誰かの歯が当たって返ってきたときだけだ。棚に並ぶ語と、歯形の付いた語を分ける。

[Verse 1]

「言葉は武器だ」と 言いながら棚で買う 棚に並ぶ刃は どの手にも合う どの手にも合うものは どの手も覚えない 握った跡が残らない 誰の刃でもない

この刃の形は 向こうが決めた 返ってきた言い方の分だけ 欠けた 欠けたところに 俺の握りが入った 入った分だけ 手から離れなくなった

一人で振っても 当たる先がない 当たらない刃は 研ぎようがない 鳴らしっぱなしにした曲は 家具になった 家具は噛み返さない ただ置いてあった

返事が来ない声は 歌になれない 誰も噛まない語は 刃になれない 売れる語は どこでも通る だから軽い 通らなかった語だけ 手の中で重い

[Hook]

弱さを知ってる分だけ 強い 知った上で乗っかる分だけ 重い 支え合いと おんぶに抱っこ 分けてるのは 一行 砥石は向こうにある こっちの手にはない 返してくる口が無ければ 刃にはならない

[Verse 2]

その日 遠い会場で 名前が呼ばれてた 同じ年に始めた奴が 壇に上がってた 別の建物で 知らない誰かの話を聞いてた 笑う顔だけ置いて 手は別のことしてた

出る資格は 言葉の強さじゃ決まらない 片道ぶんと 空かない時間で決まる 仕組みのせいにすれば 筋だけは通った 通っても その日の俺は そこに居なかった

羨ましかった その語は消さずに置く 悔しかった その語も消さずに置く 打ち消すと 燃料がそのまま減る 減った手で書いたものは すぐ擦り切れる

九割は 黙ってた手のほうに渡す 一割だけ 自分の火に回す 回した分に 立派な名は付けない 名が付いた火は たいてい燃えない

[Hook]

弱さを知ってる分だけ 強い 知った上で乗っかる分だけ 重い 支え合いと おんぶに抱っこ 分けてるのは 一行 砥石は向こうにある こっちの手にはない 返してくる口が無ければ 刃にはならない

[Verse 3]

あの通りは 磨かれて 匂いが抜けた 抜けた跡に 同じ字の看板が建った 錆も 煙の染みも 洗って消した 猥雑と呼ばれてたのは 返してくる口だった

噛み返す奴が 並んで座ってた そこで語は 毎晩 削られて帰った 帰った語には 誰かの歯形が残った いま その語だけが 棚に並んでいる

歯形は消えて 角が取れている 角の取れた語は すぐ飲める すぐ飲めたものは 腹に残らない 噛む口の無い場所は 一行で決まる

但し書きの付かない 一行で決まる 「支えられてる」と「おんぶに抱っこ」は 同じ字面で並ぶ 分けてるのは 次の一行の置き方だけ

[Outro]

砥石は通りじゃない 口にあった 一つでいい 一つあれば 刃は立った 名は載ってない 載らないまま研ぐ 九割は渡した 一割で 次を研ぐ